統治を担う本体がなくなってしまう、その有効性が損なわれてしまうということに比べたら、「縦割りの弊害」なんて些細なことではないでしょうか。「縦割りの弊害」をなくすための「政治主導」などというのは、正しく「throw the baby out with the bathwater (お風呂の水と一緒に赤ちゃんを流してしまう)」だと私は思います。
人口転換の理論とは、近代化は「多産多死」から「少産少死」への転換を伴うというもので、人口学における最重要理論の一つとされる6河野稠実『人口学への招待 少子・高齢化はどこまで解明されたか』(中公新書、2007年)107頁は「人口学では数少ないグランド・セオリー(大理論)である」とし、Sarah Harper, Demography, A Very Short Introduction, Oxford University Press, 2018, p55は「one of the centrepieces of demography」としている。
「ユースバルジ」という概念を紹介している英文記事などによると、18世紀のフランス(→フランス革命)、1914年頃のバルカン諸国(→第一次世界大戦)、1930年頃の日本(→中国侵略 この件は後で詳しく検討します)、1970年代と80年代のラテンアメリカ(→マルクス主義革命)などにその例が見られるとされているという11Lionel Beehner, The Effects of ‘Youth Bulge’ on Civil Conflicts(April 13, 2007 3:23 pm (EST))https://on.cfr.org/2Fe2bKb @CFR_org(典拠とされているのは Jack A. Goldstoneの仕事(私は読んでいません))。翻訳が出ているハインゾーンによれば、16世紀から17世紀(1550年~1650年)のイギリス(→ピューリタン革命)1700年から1800年の間のアメリカ(→独立革命)、1897–1913年のロシア、ワイマール共和国時代のドイツなどがその例であり近年は中東、中央アジア、アフリカが、若年人口の爆発期を迎えている。
人口学の主流は、近代化そのものの発生因については通りいっぺんの関心しか示さない。主流の「なぜ」は、産業革命を契機に経済的に豊かになるとなぜ死亡率が低下するのか、なぜ出生率の低下がその後に起こるのか、という狭い問題に向けられ、近代化とは経済の向上がもたらすものだという常識が問われることは少ない12人口転換は経済的諸条件とは無関係に発生し、経済が人口に与える影響よりも人口が経済に与える影響の方が大きいという見方を取るものとして、Tim Dyson, Population and Development, 2010, Zed Books Ltd, London, NY.(序文の一部しか読んでいません) (ようである)。
しかし、エマニュエル・トッドの研究成果を手にしている私たちは、この説明では満足できない。冒頭でも触れたが、トッドは、ストーンの発見(イギリス革命、フランス革命、ロシア革命のすべてが成人男子の識字率が50%前後の時期に起きたことを指摘した)に着想を得て13ストーン自身は「3分の1から3分の2の間」と幅を持たせている。Lawrence Stone, Literacy and Education in England, 1650-1900, Past and Present, 1969, p138、識字率上昇こそがもっとも重要な近代化の動因であることを明らかにした(エマニュエル・トッド「世界の幼少期ーー家族構造と成長」『世界の多様性』(藤原書店、2008年)所収)。産業革命が起こるのはその後なのだ。
なお、学生運動としては、60年安保との関係も視野に入れておきたい。1960年の18-20代前半の若者たちは、68年には及ばないが、それなりの「バルジ」を構成していた(下の人口ピラミッドは1960年のデータ。10年後の若者のバルジもわかります(英語版Wikipediaの項目「Demographics of Japan」より))。
河野稠実『人口学への招待 少子・高齢化はどこまで解明されたか』(中公新書、2007年)107頁は「人口学では数少ないグランド・セオリー(大理論)である」とし、Sarah Harper, Demography, A Very Short Introduction, Oxford University Press, 2018, p55は「one of the centrepieces of demography」としている
Lionel Beehner, The Effects of ‘Youth Bulge’ on Civil Conflicts(April 13, 2007 3:23 pm (EST))https://on.cfr.org/2Fe2bKb @CFR_org(典拠とされているのは Jack A. Goldstoneの仕事(私は読んでいません))
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人口転換は経済的諸条件とは無関係に発生し、経済が人口に与える影響よりも人口が経済に与える影響の方が大きいという見方を取るものとして、Tim Dyson, Population and Development, 2010, Zed Books Ltd, London, NY.(序文の一部しか読んでいません)
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ストーン自身は「3分の1から3分の2の間」と幅を持たせている。Lawrence Stone, Literacy and Education in England, 1650-1900, Past and Present, 1969, p138